2010年7月アーカイブ

知床・羅臼岳調査

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今夏も知床に調査に行きました。

 

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7/9-19の11日間で、森林生態系における種多様性を評価するプロジェクトです。横浜国大、京大生態研、スウェーデン農科大学からの参加者に加えて、九大演習林、北大演習林からの応援もありました。皆様のご協力のおかげで、無事終了しました。

 

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今年の調査は大変でした。去年は、調査といっても予備調査だけでしたが、今年は違います。何か月も前から準備を進めてきました。今回の調査は国内外から総勢26名にも及ぶもので、チケット、宿、車の手配だけで、かなりの労力を要しました。さらには、入林許可証の申請、国立公園内の行為許認可申請、ヒグマ対策にまつわる様々な準備、緊急時対応、事前の救命講習、大量の装備の準備と発送、保険、食事の手配・・・等々・・・、今まで行ってきた数々の野外調査に比べても、比較にならないほどの事前準備を要しました。

準備は私だけでできるものではなく、手分けしてマニュアルを3種類作り、装備の手配をして・・・。そして、あっというまに知床合宿の日がやってきました。

 

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事前の準備が大変だっただけに、始まってしまえば、案外すんなりいくのでは?と思っていたのですが、大きな間違いでした。毎日、登山道を登り、時には片道3時間かけて標高差1000m以上も歩くことは、時間と体力の双方を消耗しました。そもそも悪天候で始まり、限られた日数の中で、それぞれの参加者が最も納得するデータを取るために、どのような戦略で限られた日数を使うのか?ヒグマも出没する中で、全員の緊張感をどのように保つのか?疲労と寝不足でみんなが疲れていくなかで、どのように日々の調査班を編成するのか?毎日同じ場所での調査ではなく、調査個所を転々と広げていく形のために、体力と余力に応じた調査班の編成が必要でした。  

 

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すべてが良い経験でした。 

最後の日空港にて、SLUから来たGoran (Thor博士)が、「みんなが想像している以上に、このようなプロジェクトのマネジメントは大変だということは、自分自身の経験から理解できるよ。」と言ってくれた時に、ようやく重荷から解放された気がしました。

今回は、序盤の悪天候にも負けずに調査を続けたおかげで、後半ほど天候が持ち直し、終わってみれば、想像以上のデータが取れました。そして何よりも、データを取得できたことだけでなく、普段はともに作業をしない異なる分野の研究者、異なる所属・国の研究者と協働して作業し、寝食を共にすることは、学生にとっても教員にとっても貴重な経験だと思います。

 

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連日、早朝からの野外調査に、相当量の歩行距離、帰ってからも今後の作業についての議論に、睡眠時間を削ってもまだまだ終わらない内業・・・、正直これほど全員が頑張れるとは思っていませんでした。ヒグマとも出会い、常にヒグマに対して緊張感を持ち続けることも疲労する原因だったと思います。休む時間も、個人の時間も全くなく、11日間も調査作業を続けることは、精神的にも身体的にも大変だったと思います。参加し、ハードな調査に負けずに協力してくれた皆さんに、本当に感謝します。大変だった分、得たものも大きかったと思います。 

 

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私自身も、調査の準備から、旅行の手配、外国研究者への対応、緊急時対応、現地作業の柔軟な進め方、集団での作業・生活における落としどころの見つけ方など、貴重な経験をさせてもらったと思っています。参加してくださった方々、本当にありがとうございました。今後、皆さんが会し、発表し合える機会があればと思っています。 

 

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・・・ただ、もう一回この調査をしろと言われると、正直なところ今はしたくはないです。無事に終わった今だからこそ、11日間とても楽しかったなと思えるというのが、素直な感想でしょうか。

 

仙台にて

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先週、金曜日に東北大学に行きました。仙台に行くのは、2度目です。前回は生態学会で行ったはずですが、どうやっていったのかどこに行ったのか、まったく覚えていません。東北新幹線に乗るのも初めてで、今更ながらいろいろと新鮮でした。

東北大学では、グローバルCOEの方々にお招きいただいて、北海道大学に赴任された山浦さんと一緒に、「景観生態学の視点から迫る森林生態系管理」といったセミナーの中で、講演の機会をいただきました。私は、いつもながら、「自然撹乱体制を尊重した森林生態系管理」に関する話をしました

自然攪乱を尊重する形で、森林の施業をするということについて、主にカナダとスウェーデンの事例を用いて話をしたのですが、質疑応答の中でいくつかの点に気づきました。

問題のひとつめは、いつも問われることですが、生物多様性に配慮した森林施業をしている先進国の事例を、日本に適応するにはどうすればよいのかということです。そもそも林業先進国の多くは、もともと針葉樹が優占するところが多く、天然林の主要樹種がそのまま林業の対象であることが多いのに対して、日本ではそもそも暖温帯から冷温帯の広葉樹林が本来の植生であり、林業の対象であるスギやヒノキは、天然林としての要素をあまり期待できないといった問題があります。

ふたつめは、どのような伐採の仕方をするのか、伐期はどうするのか、育種や伐採の対象種はどうするのか、などといった技術的な問題もさることながら、そもそも林業に係る税制や森林認証、公的補助などの体制が異なること、それ以上に、生物多様性を保全することに対する社会、あるいは行政サイドの意識と、実際的な資金の投与が異なると思います。このような問題になると、林業経済や政策に疎い私では、何ともお答えしがたいです。このあたりも、特に日本の状況について、きちんと自分なりにセンサスして理解しないといけないことを痛感しました。

私の主張する攪乱生態学的には、生態系本来のプロセスをできるだけ尊重して施業・伐採することで、様々な生態系サービスや生物多様性を極端に損ねないようにするということを強調します。しかし、現実的には、それを実行する以前に、クリアすべきことが多くあり、自然科学として生態学による主張を展開するだけでは理想論にすぎないことを痛感しました。

ところで、よく私の主張を要約すると、自然攪乱を"模倣する"というようにまとめられます。私も以前にそのように端的に主張していたと思いますし、実際に論文等にも既述したような・・・。しかし、最近は、ただ外見的な様相を模倣する(たとえば、伐採地で自然攪乱後のような感じに樹木を残す)だけでは、必要であっても、十分ではないと主張する必要があると思っています。どのような特性、特徴、あるいは要素を残す・模倣することで、生態系の中のキープロセスを保全することに貢献できるのか、その意味合いと実際的効果の方がより重要と考えています。

長くなりましたが、要は、まだまだ勉強するべきこと、考えるべきこと、研究してみること、いろいろあることを痛感した東北での日でした。

 

研究にまつわる写真

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