2015年1月アーカイブ

査読システムに関して

先日、編集委員をしている雑誌より注意が回覧されました。内容は、査読者(reviewer)の詐称に関することです。詳しいことは、NatureあるいはRetraction Watchに掲載されています。

要は、電子投稿・査読システムの中で、別人を装って自分を査読者にするように偽装した事例があったようです。現在の電子システムならではでの問題です。

著者が査読者を指定しなければ良いのではという意見もあるようです。しかし、実際に編集委員をしていると、査読者を探すのは結構大変で、著者の指定する査読者に査読依頼を出したくなるのは理解できます。

ところで、査読システムですが、雑誌によって色々と編集指針が変更されつつあります。たとえば、Conservation Biologyは、昨年ダブルブラインド(査読者も著者も匿名)に移行したと聞きました。一方で、すでにダブルブラインドを実施しているEnvironmental Managementは、もうすぐ従来のシングルブラインド(査読者だけが匿名)に戻す可能性が高いとのことです。

方法論の確かさだけを審査するPlosOneやScientific Reportsなどの雑誌も増えており、データの公開を求める雑誌も相当に増えています。つまりは、査読のあり方も多様化しています。

いくつかの雑誌の編集委員をしていると、雑誌ごとの特徴やそれぞれの査読システムの長所や短所も見えてきます。しかし、これがもっとも最適という査読システムはなく、模索というよりある意味迷走していると思えることもあります。

編集者の確認作業も増えている気がしますが、各雑誌の査読システムは毎年揺れ動いているので、著者も投稿前にきちんと確認したほうが良いですね。

帰国

月一回の更新を目標にしつつ、しばらく放置をしていました。
わてていくつかの記事を更新しました(まるで月一回は必ず更新しているかのように振るまっていますが・・・)。

そういえば、半年間のカナダ滞在を経て日本に戻っています。
年もどうぞ宜しくお願いいたします。


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今年は、新たな山火事研究を行います。

帰無モデル

群集生態学においては、帰無モデルと呼ばれる、単純な制約を課した統計モデルを用いることで、局所群集の多様性を形成する理由を探るということが頻繁に行われます。

ベータ多様性については、種プール(ガンマ多様性)の影響を受けることが以前より知られていました。私はいつも、生徒数の多い学校でクラス替えをすると、次の学級で以前と似たメンバー構成になる可能性は低いが、人数の少ない学校でのクラス替えだと、次も同じようなメンバーで学級が構成される可能性が高いことに例えて説明をしています(分かりにくい?)。

この効果を削除する方法が2011にサイエンス誌に掲載された論文で提唱されました(Kraft et al. 2011, Science)。その後、この方法を用いて、温帯林と熱帯林では、ベータ多様性を形成する2つの主要因(環境と空間)の相対重要性が異なることが提唱されました(Myers et al. 2012, Ecology Letters)。

先の論文はいくつもの非難を受けているのですが、そのうちのひとつが、先の論文の帰無モデルは、無作為化の過程において、群集における各種の優占度のパターン(Species abundance distribution, SAD)からの影響が除去できていないとのことです(Qian et al. 2013, Global Ecology and Biogeography)。

以上を鑑みて、種プールとSADの効果を考慮してベータ多様性を評価することの意義を再考察する論文を作成、公表しました。今回は、日本の樹木群集のベータ多様性を形成するプロセスについて、緯度及び標高の傾度に沿った変化パターンを評価しました。

結論としては、SADの形成には意味があるので、帰無モデルもSADを反映させるべきであること、主プールの影響を除く方法次第では、間逆の結果を生み出しうることが示されました。

長々と述べましたが、日本の樹木群集における局所的な多様性のばらつきは、環境の異質性に影響を受けていそうだということも分かりました。


この内容については、2月に北海道大学・環境科学院で行われるセミナーでもお話しする予定です。

研究にまつわる写真

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