群集生態学においては、帰無モデルと呼ばれる、単純な制約を課した統計モデルを用いることで、局所群集の多様性を形成する理由を探るということが頻繁に行われます。
ベータ多様性については、種プール(ガンマ多様性)の影響を受けることが以前より知られていました。私はいつも、生徒数の多い学校でクラス替えをすると、次の学級で以前と似たメンバー構成になる可能性は低いが、人数の少ない学校でのクラス替えだと、次も同じようなメンバーで学級が構成される可能性が高いことに例えて説明をしています(分かりにくい?)。
この効果を削除する方法が2011にサイエンス誌に掲載された論文で提唱されました(Kraft et al. 2011, Science)。その後、この方法を用いて、温帯林と熱帯林では、ベータ多様性を形成する2つの主要因(環境と空間)の相対重要性が異なることが提唱されました(Myers et al. 2012, Ecology Letters)。
先の論文はいくつもの非難を受けているのですが、そのうちのひとつが、先の論文の帰無モデルは、無作為化の過程において、群集における各種の優占度のパターン(Species abundance distribution, SAD)からの影響が除去できていないとのことです(Qian et al. 2013, Global Ecology and Biogeography)。
以上を鑑みて、種プールとSADの効果を考慮してベータ多様性を評価することの意義を再考察する論文を作成、公表しました。今回は、日本の樹木群集のベータ多様性を形成するプロセスについて、緯度及び標高の傾度に沿った変化パターンを評価しました。
結論としては、SADの形成には意味があるので、帰無モデルもSADを反映させるべきであること、主プールの影響を除く方法次第では、間逆の結果を生み出しうることが示されました。
長々と述べましたが、日本の樹木群集における局所的な多様性のばらつきは、環境の異質性に影響を受けていそうだということも分かりました。
Mori AS, Fujii S, Kitagawa R, Koide D. (2015) Null model approaches to evaluating the relative role of different assembly processes in shaping ecological communities. Oecologia 178: 261-273.
この内容については、2月に北海道大学・環境科学院で行われるセミナーでもお話しする予定です。