2010年12月アーカイブ

真冬の調査地

久々に調査地であるクートニー国立公園に行きました。さすがに12月中旬となると、完全に冬山でした(当たり前ですが)。出発時の気温は-14℃くらいでしたが、上部では結構寒かったです。

 

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↑2003年の山火事跡地です。

 

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↑Subalpine firとEngelmann spruceの林

 

しかし、やはり冬の森林は綺麗でした。針葉樹に雪が被さり、なかなかに幻想的でした。いくつか野生動物の足跡を見ましたが、このような環境で生活できることはすごいと感じます。人間にとっては、harsh(厳しい、残酷な)であると思うのですが、そこに生育する動植物にとってはそうではないのでしょうか?

以前に、北極圏の調査地の論文にて、"harsh"という言葉を使った際に、それは人間の主観だと、査読者に指摘されたことがあります。調査地の2月の平均気温が-38℃なので、すべての生き物にとってとてもharshだと思ったのですが・・・。

しかし、このような環境にこそニッチがあり、繁栄できる生物がいることを考えると、それらの生物には、harshどころか他の南方種に競争排除されない快適な場所なのかもしれません。そう考えると、確かにharshという表現は、人間の視点から見た主観に過ぎないと思えます。

雪崩だって、山火事だって、人間から見れば災害ですが、ある種の生物にとっては、むしろ必要なイベントです。そう考えると、(以前に比べてマシになりつつあるのでしょうが)生態系のいろいろな事象を人間の主観で捉えすぎていないかと不安になります。

そんなことを考えた1日でした。

 

 

これまでの集大成

以前にサイモンフレーザー大学に在籍していた頃に書き出して、数週間取り組んだものの、その後は執筆が全く進まずに放置していた総説があります。去年、突然にアイデアがひらめき、一気に書き上げて、今年の初めに投稿しました。最初にRevise and Resubmitの評価を受け、9月に再投稿し、その後はすんなりと受理されました。

 

Mori AS (2011) Ecosystem management based on natural disturbances: Hierarchical context and non-equilibrium paradigm. Journal of Applied Ecology 48: in press.

 

書いていた時間自体はそれほどではないのですが、なんだかんだで書き出しから受理まで4年ほどかかりました。自然撹乱が、生態系管理のなかでどのように組み込まれるべきか、私の見解を述べたものです。

 

査読の過程で、レジリアンスについても触れるようにとの指摘があり、その追加に伴って、かなりのボリュームになりました。投稿規定では、Reviewは8000字までとなっているにも関わらず、12000字ほどになってしまいました。結局、10000字まで減らせば掲載可能との連絡を受け、受理に至りました。文意を変えずに、文章を削減することは、かなり難しいと実感しました。簡潔に物事を述べるのって大事ですね。

 

私自身は攪乱生態学者を標榜しています。この総説が、これまでの概念的な集大成なわけですが、今後はより実践的な研究を展開したいと思います。

 

地域住民との関わり

私がいるBow Valleyでは、環境、野生動物、生態系、国立公園管理・・・などについて、さまざまな内容に関する市民向けのセミナーやワークショップが開かれています。 あまりに身近にそのような機会がたくさんあるので、少しずつですが紹介したいと思います。

 

まずは、地元の市民ホールで開かれた小さな子供向けのイベント、アルバータ州立公園局による「Plant Wars : Invaders of the Lost Park」です。

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2名の州立公園局のレンジャーが、子供たちに植物について説明をしていたのですが、その内容はいわゆる外来種についてです。小さな子供たち相手にも関わらず、"Alien Plants" (外来植物)、"Invasive Plants" (侵略的植物)、"Native Plants" (在来植物) の違いを具体例を用いて解説していました。

その解説の仕方ですが、2名のうちそれぞれが、外来種と在来種に扮した演劇でした。

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演劇は、次第にミュージカルとなり、"美しいNative Plantsを守るために、Invasive Plantsを地面から引っこ抜き、追い出そう!"と歌っていました。繰り返し流れるそのフレーズは、前に貼り出され、最後はみんなで歌います。

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内容は、子供はもちろん、大人にも興味深いものでした。

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これはかなり年少の子供たちを相手にしたイベントでしたが、もちろん大人向けのイベントもあります。生態系の管理に関わる相当に多岐にわたる内容が、さまざまな形で市民向けに公開されています。

 

私自身は、自身の研究成果が論文といった形ではなく社会に反映されることを望んでいます。私も国立公園局にサポートされて研究を行っているので、これからもこのような保護区の管理の中での地域住民との関わりを少しずつ紹介したいと思います。

 

生態リスク

前々回の日本生態学会盛岡大会にて、企画しました「我々は生態リスクとどう向き合うのか?」のシンポジウムの内容を扱った総説の特集が、日本生態学会誌に掲載されました(ようです。海外にいるので、実物は見ていません)。

これは、2008年から企画を進めたもので、特集の著者の方々(シンポジウムの演者の方々)には、事前に横浜国大まで足を運んでいただき、講演会&生態リスクCOEのフェローやRAとの勉強会にもご協力いただきました。

盛岡でのシンポジウム本番を経て、日本生態学会誌で特集として掲載することを目的に、各自執筆を進め、ようやく出版に辿り着きました。

私自身はカナダにいるので、雑誌自体を直接に読んでいませんが、こうして一つの形になったことは、我々の取り組むにひとつの区切りをようやく付けれたと思います。しかし、この特集のそれぞれの内容は、実際の生態系や環境管理に生かされてこそのものだと思います。

今回のタイトルには、「我々は」が頭についています。この「我々」は生態学者のことを指しています。生態リスクと向き合うのは、科学者だけではありません。地域住民や環境団体などの多くのステークホルダーが関わります。しかし、多くの異なる立場に基づいた論理展開をすることは非常に困難です。ですので、今回は、我々生態学者にとって参考となるであろうことを中心にまとめました。本学会員をはじめとする多くの研究者の方々の応用研究や社会との関わり方において、今後の役に立てばと思います。

 

"異常"気象?

こちらカナディアンロッキーでは、9月に相当量の積雪がありました。6月も天気が悪く雪が降っていたようです。しかし、10月から11月初旬までは驚くほど暖かく、毎日天気がよく、夏と秋と冬の順番がぐちゃぐちゃでした。

しかし、11月中旬に入ると、思い出したように、寒波が来ました。初旬には気温がプラス10℃を超えたいたにもかかわらず、とうとうマイナス37℃を記録しました。突然の寒波襲来に、街の機能は停止、人々は家に引きこもり・・・。

日本だと、これだけの寒暖差があると、異常気象だとか騒ぐのかもしれません。しかし、こちらの人は、今年は変だねと話しながらも、それほど驚いていません。もう一回くらい、強烈な寒波が来るかもねと普通に話していました。

 

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要は、北極振動の影響なのでしょうか。寒気が北極に閉じこもるとこちらは暖かく、寒気が北極からもれると寒くなるのでしょうか。気候の大きな揺らぎを肌で実感する日々です。

 

少し前までフィールドに入れたので持ち歩いていたベアスプレーが、車に置きっぱなしで凍っていました。解凍したら、スプレーの圧もカプサイシンも普通に有効なのでしょうか? 

 

研究にまつわる写真

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