2010年9月アーカイブ

閾値について

| トラックバック(0)

9月28日、東北大学GCOEフェローの佐々木雄大さんに本学まで来ていただき、生態学的閾値(ecological threshold)についての講演会(本学GCOE主催)を行っていただきました。公開講演会は、本学環境情報研究院にて博士課程の学生を中心に行われている若手の集いを兼ねていたために、私のいる大野・酒井・森研究室の博士3年でRAでもある古川拓哉君の発表も行われました。

発表タイトルは以下の通りで、発表の要旨についてはこちらに記載されています。 

 

「生態系管理における生態学的閾値の応用と課題」

東北大学生命科学研究科 COEフェロー 佐々木雄大

「閾値モデルの森林管理への応用:強度の燃料利用下にあるナイロビ近郊林における事例」

横浜国立大学環境情報研究院 COERA 古川拓哉 

 

当日の様子につていは古川君のまとめてくれた 第54回公開講演会報告書.pdfに記載されています。

 

私としては、閾値が検出できるような突然の状態変化が起こるような場合が見れること、そのような変化(特に非可逆的変化)が生じる前に予防的管理が必要出ること、そのために閾値が重要な注目変数になることなどについて、理解を深めることができました。一方で、レジームシフトやレジリアンスの概念と、どのように概念的重複があり、どのように差異があるのかが、私はやっぱり理解できていません。

上記の報告書に記載されているように、応答変数に、群集組成を用いる場合と種多様性を用いる場合では、変化パターンが異なることが、両発表で示されました。攪乱強度が増していくと、群集組成の突然変化(abrupt change)が生じる点が検出され、多様性も急激に減少するようでした。しかし、多様性に関しては、攪乱強度(ここでは放牧と伐採)が低いところでも多様性の現象が見られ、しかもその変化は閾値変化ではなかったことが気になりました。最近、北米やアジアの放牧地で、grazing exclusionが種多様性を減少させることが報じられているので、長期にわたり里山や放牧地として利用されてきた場所での、利用排除が生物の多様性(種レベルだけに関わらず)を減少させる効果についても、critical pointを見出すことができないのかな?と思いました。つまり、over-useが生態系に与える影響について検証し管理に生かすだけでなく、under-useの影響についても評価できれば生態系管理や復元に生かせるのではないかと個人的に思いました。

 

今回の講演会で行った内容は、来年3月の日本生態学会札幌大会で、企画集会として提案する予定です。企画は、東京工業大学の岩崎雄一さんを中心に企画が進んでいます。

 

 

ドイツの森へ

| トラックバック(0)

スウェーデンからそのままドイツにも行きました。ドイツを訪問するのは、11年ぶりです。

私のドイツのイメージは、スウェーデンと同様に、いわゆる林業先進国で、環境大国でした。ですので、スウェーデンとの差異がどこにあるのかが気になっていたのですが、今回の訪問で、聞いて見て、そして得た印象は、全然違うということでした。

私の印象では、スウェーデンよりも、ドイツはより日本に近いというものです。国土を覆っていたブナの森をドイツトウヒの人工林に大幅に転換し、本来優占しない樹種を用いて林業を行っている点や、あくまで木材生産がほぼ主眼であること、などです。フライブルク郊外から見下ろした景色は、人工林で覆われた日本の山のようでした。

germany02.JPG

 

もちろん、ドイツと日本の林業の相違点はたくさんあります。日本と異なり、ドイツでは、(少なくとも私の訪れた南部の州では)持続可能な形で(生産と消費、造林と伐採という点で)、林業が行われているようです。間伐手法、林道の整備、木材の流通経路なども、日本とは大きく異なり、日本よりも合理的かつ低コストで行われているようです。各地域に森林官が配置され、実際の施業への助言や管理を行っている点も、日本とは大きく異なります。植林地での施業方法なども、ドイツでの手法に大きく見習うところがあると思います。

germany01.JPG

 

日本では、人工林への転換後、戦後の60-70年しかまだ経っていません。ひとの寿命よりも短い時間しか経っていないので、人工林への大幅転換が記憶に新しいのかもしれません。一方で、ドイツでは、150年ほどの年月を経ているそうです。ひとの寿命よりも長い時間が経っているので、現在のどの世代の人も、人工林を主体とした山村風景が当たり前なのだと思います。ということは、日本でも、あと数世代後の時代には、人工林で覆われた風景が、人々のイメージする自然の森林の姿になるのでしょうか?

germany03.JPG

 

ドイツに比べて、スウェーデンでは、林業においても生物多様性に対する配慮が強いです(少なくとも私の印象では)。施業地であっても、自然林にあるはずのdead woodを残すことを重視していたり、retention systemを用いたりと、森林認証による要求が強いこともあって、相当に徹底されていると思います。もちろんスウェーデンにおいても、重機を用いて伐採を行うので土壌へのダメージが大きいことや、企業や工場が大規模化しすぎて不健全であることなど、マイナスの指摘も多くあると思います。ただ、スウェーデンの林業が、生物多様性を尊重するに対して、ドイツの林業はあくまで生産性と経済性における持続可能性を追求しているとの印象を受けました。

日本は、ドイツのように、主に広葉樹林を針葉樹林に転換して林業を行っています。生産と消費のバランスを考えた、より合理的な林業を行い、木材の自給率を高めるために、森林管理における見習うべき点はたくさんあるのでしょう。

一方で、ドイツでは天然林がほとんどないとのことです。98%の森林が経済林と伺いました。実際にオーストリアと国境を接する山岳地域ですら、フットヒルはひたすら人工林でした。日本は、森林率が高いだけでなく、歴史的に人口密度が高く、国土を人が利用してきたにもかかわらず、天然林や自然度の高い森林もまだまだ多くあると思います(山岳地に偏っているかも知れませんが)。ドイツの森林を訪れて、このような森林が発揮する生態系サービスには多くの可能性が秘められているとも感じました。 

 

スウェーデン再訪

| トラックバック(0)

2年ぶりにスウェーデンを訪れました。今回の訪問目的は、生物多様性に関連した森林管理に関して、研究者や政府関係者にインタビューをすることと、現地の視察です。

いつもお世話になっているスウェーデン農科大学(SLU)を中心に、Forest Stewardship Council(FSC)、Swedish Forestry Agency(Skogsstyrelsen)、Abiesko Research Station(Umeå University)などを訪問しました。

 

sweden01.JPG  

sweden04.JPG

 

スウェーデン北東部のNature Reserveにも連れて行って頂きました。スウェーデンらしく、地衣類や苔類が繁茂し、リンゴンベリーがたくさん見られました。

sweden05.JPG

sweden06.JPG 

 

森林局のスタッフもウェルカムボードまで用意して丁寧に1日かけて相手をしてくれました。スウェーデンでは、1994年に発令されたSwedish Forestry Actの第1項において、生物多様性と生産性の双方に、均等に重きを置くといったことが明記されており、それが重要だと強調されました。 

sweden02.JPG 

 

ウプサラ近くの施業地では、現地の森林官とともに、林地を案内してくれました。

sweden07.JPG

sweden08.JPG

 

Green planに基づいて、施業を行うようで、上記の写真は、1週間前のclear-cutの場所です。重機を入れる前に、枝葉で土壌を保護し、全部を切り払うのでなく、広葉樹などを中心にretentionするなど、写真の森林官が現場の判断で行っているとのことです。(retention systemやretention patchについては、2007および2009の論文を参照ください)

管理地の中には、伐採せずに保護する対象としてGreen planに記載されている場所があります。 たとえば、下の写真は保全価値の高い林地に出現する指標種のひとつです。

sweden09.JPG

 

このような指標種がいる場合、  生態学的に保全価値が高いと判断され、伐採対象から外されています。

sweden10.JPG

 

今回は、スウェーデンでは、僅かな天然林が北部にしかほぼないこと、国立公園が北部に偏っていることなどから、アビスコのリサーチステーションも訪問しました。ラップランドは、9月中旬で、すでに紅葉真っ盛りでした。

sweden11.JPG 

 

生育期間の短い北欧の国で、生産性を維持しながら、生物多様性にも配慮して、林業を行うことができているのであれば、日本は中緯度に位置し生育期間が長く、そして降水量にも恵まれていることから考えると、双方を両立させる何らかの手立てがあるはずだと思います。これから半年かけて、もう少し考えたたいと思います。