2016年7月アーカイブ

森林再生地における多様性と機能性

知床での野外研究の新しい成果が、Journal of Applied Ecologyで掲載されました。

Fujii S, Mori AS, Koide D, Makoto K, Osono T, Isbell F (2016) Disentangling relationships between plant diversity and decomposition processes under forest restoration. Journal of Applied Ecology : in press.

2013年に開始した「しれとこ100平方メートル運動地」における野外研究の成果の2報目です。

当地では、森林再生を目的として、過去数十年間に植林をはじめとする様々な森林再生の試みがなされてきました。今回の成果では、森林再生を目的とした多種の植林が、樹木種数だけでなく、草本植物の機能的多様性や土壌真菌類の多様性を向上させ、結果として土壌代謝プロセスを変え得ることが示唆されました。

現実の生態系復元の場における生物多様性の回復が、生態系の機能性をも回復させ得る可能性を示しました。

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森林更新の遅れているササ地にて


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このプロジェクトでは、多くの共同研究者やラボのメンバー、現地の方々に多大な協力を得ています。まだまだ共同研究としての成果は一部しか残せておらず、今後も地道に成果を公表していきたいと思います。

WKへ 2016年夏の調査

今夏、天塩、ヨセミテ、知床と野外調査をこなしてきましたが、作業量としては、今年のメインとなる北極プロジェクトによるカナダ調査に行ってきました(まだ3名は、行っています)。

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3月、強硬日程で、ケベック州はラバル大学に打ち合わせに行きました

そして、いよいよ今年の対象地であるケベック州北部のThe Great Whale Riverへ。

ここはイヌイット族とクリー族がともに住む地、ある意味独特の雰囲気と多様性を持つ場所です。この町の対岸の大地、ツンドラとタイガの境界域へとキャンプに行き、野外調査を行いました(繰り返しですが、まだ行っています)。

気温は、蒸し暑い摂氏28度から、強風で凍える摂氏0度まで変動し、海風にたたかれ、17種の蚊とその他の吸血性のムシたちに苛まれと、なかなかなキャンプ生活でした。緯度はまだまだ低いのに、凍ったハドソン湾の影響を肌身で感じました。

そういや、長い旅路を(片道だけで7回の離着陸を経て)運ばれてきたドローンはようやく飛び立つかと思いきや、一瞬で池に完全水没しました。

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長い準備と移動を経て、いよいよ上陸


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現地で見つけた漂流物のケーブル巻きをキャンプに運び


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バグシェルターのなかに運び込み、テーブルとなりました。
るでオーダーメイドのようなサイズ感でした。


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写真は、基本的に良いところ撮り。コンディションが悪いときは、あまり撮る気になれません。


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谷間には、Lichen woodlandが広がる


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台地のうえにはツンドラ植生が広がる


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大学院時代のラボの長兄らとともに

あの頃は、まさか後年、こんな場所で一緒に貧乏キャンプをすることになるとは思いもしませんでした。この先も何があるのかは全く分かりませんね。


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そして、まだ調査をしている北極プロジェクトの主力隊

つらい調査の先には、素晴らしい成果が待っているはず。


知床での卒業研究シリーズの成果の第3弾、M2の笠原を第一著者とする論文が掲載されました。

Kasahara M, Fujii S, Tanikawa T, Mori AS (2016) Ungulates decelerate litter decomposition by altering litter quality above and belowground. European Journal of Forest Research : in press.

知床でもエゾシカ個体群の過剰な増加は問題となっています。エゾシカによって、植生は大きなダメージを受けていますが、特にエゾシカによる選好性の高い種ほど、葉群の損失や樹皮剥ぎによる影響が顕著です。

今回は、エゾシカ選好性の異なる3樹種の葉と根のリターを用いて、防鹿柵のある天然林と防鹿柵のない天然林での分解実験を行いました。

エゾシカによる過剰な食植は、植物種の構成や多様性に影響を与えるだけでなく、直接的・間接的にリター分解、そして物質循環へも影響を持ち得ることを示しました。

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シカ選好性の高いオヒョウは、防鹿柵の外では、リターバッグに入った落ち葉すらほとんど食べられ・・・。


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他のメンバーの調査もたくさん手伝いながら現地に長く滞在し野外調査を行い、その後もたくさんの実験をして、論文を執筆してと、長い道のりを経た成果です。

ずっと地道に論文を書き、何度も修正をしてきました。受理直前の段階、マイナーな修正を求められているだけでも、先の知床での野外調査中も、調査と作業後にひとり夜中3時まででも論文原稿とレスポンスレターを直していました。

尊敬すべき地道かつ実直な努力の成果です。

知床へ 2016年夏の調査

今年も知床調査に行きました。

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昨年、ネズミ大発生により壊滅的だった林床の植生も回復してきました(防鹿柵の内側はツタウルシの海ですが)


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レア種を探す


そして知床ゼミにて、冲邑笠原西澤が発表をさせて頂きました。

知床まで行って卒業研究をするからにはと、ただ単位を取るだけでなく、色々と求めました。

様々なサポートにより成り立つ野外研究ですので、成果を残そうと。
その一段階として、学術論文を書くことで得た知見を世界に向けて発信しようと。

そして、学術論文という客観的な評価を得た成果をもとに、現地の生態系管理に携わる方々にようやく何か提言をできるのではないかと。

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2014年の卒業研究のための野外調査から2年、見事に学術論文化し、とうとう現地で発表するまでに至りました。

貴重な機会を頂きました。


研究にまつわる写真

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