行政刷新会議(事業仕分け)の期間中である11月25日に、グローバルCOEプログラム評価が第3WGによりなされました。結果は、予算要求の1/3程度縮減とされました。これを受けまして、本日、東京大学小柴ホールにて、13時より記者会見が行われました。これは、全国のグローバルCOEプログラム140拠点すべてによる共同声明となります。
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この会見に際して、GCOE拠点メンバー、フェロー、RAが会場に集まりました。特に、大学院生やポスドクフェローの実際の声を届けたいとのことから、多くの若手研究者が集まりました。私自身も、本学GCOEの特任教員であるので、参加してきました。
声明発表後には、会場の若手からの発言に移りました。多くの参加者が挙手をし、様々な意見を述べていました。
印象に残った意見としては、
・経済支援、海外派遣支援などを通して、GCOEプログラムにより貴重なものを得た。
・GCOEプログラムにより、それぞれの分野内外の交流が促され、閉鎖的になりがちな研究環境が一新する。
・GCOEプログラムにより、大学にいるだけでは知りえない、現在の研究の世界的な進捗状況を知りうる貴重な機会がもたらされる。
・諸外国に比して、日本では大学院生の経済補助が非常に乏しい。今回の結果は、この傾向をさらに助長する。
・若手研究者育成の縮減傾向は、経済的に優遇される海外の大学院への人材の流出につながる。
などが挙げられます。(実際には、参加者の方はもっと詳しく発言をされていました。個々の意見を的確に表現できているわけではないと思います。以上は、私が聞いた印象を要約したものです。そのほかにも具体的な意見が述べられていました。)
限られた時間の中では、一部の参加者しか発言できませんでした。私も発言したく思いましたが、その機会は巡ってきませんでした。以下に私が発言したく考えた内容を記しておきたいと思います。
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ポスドク等の若手研究者への予算削減傾向は、次世代を担う現在の大学院生・ポスドクの研究環境を蝕み、将来を閉ざすことで、長期的に負の影響が出るとの意見には、当然合意できます。私としては、それに加えて、ただでさえポスドクは高学歴のワーキングプアであるとの報道や社会的印象が強くなりつつある中で、今回の事業仕分けの結果は、大学院への進学そのものへの抵抗感を社会全体に植え付けることを危惧します。これは、後世の潜在的な優秀な人材の損失につながり得ると考えます。そして、それにより、大学等研究機関における研究活動の発展・科学技術の進展といった観点だけでなく、大学院教育を受け、高度の専門知識を持った上で、民間企業やコンサル、官公庁で活躍しうる人材の育成機会をも失うことにもつながると考えます。つまりは、今回の仕分けの結果は、超長期的に、大学等研究機関だけでなく民間、ひいては社会全体における、人材育成の機会を失うことにつながると考えます。
今回のGCOEに対する削減という結果だけが撤回されれば良いと言うのではなく、社会の中での現在の若手研究者の立場というものを抜本的に再考する必要があると考えます。研究助成や経済的な支援だけでなく、社会システムの中で博士の必要性と活用性を見出す必要性が広く認知されないと、今後の高等教育の意義に疑問を覚えます。
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若手の参加者からの発言後には、報道関係者からの質問となりました。本日の会見では、朝日新聞の記者の方による質問がなされました。特に、1)OECD加盟国中最下位の投資にも関わらず、世界の大学ランキングで日本の大学の順位が上昇傾向にあるのならば、予算を削減されても研究の発展ができることを示しているのではないか?2)アカデミアに固執しすぎでは?大学での教育というのは研究者の育成だけではないはずでは?といった質問は、今回の共同声明を受けて、政府だけでなく社会そのものが容易に抱き得る疑問を的確に表現したものであると感じました。(記者の方にそのような意図があったかどうかはまったく不明です。ただ、あえて意地悪な質問をするとした上で述べられていたので、私個人としては、そのような印象を受けました。)
これらに答えることで、この場にいない社会の方々の疑問に答える機会が生まれたと感じました。質問に対しては、とりまとめをされていた名古屋大学の渡辺先生が回答されていました。1)については、日本の研究者は欧米の研究者とは異なり、彼らより少ないサラリーと多い労働時間によって少ない研究費を補い、日夜、教育・研究活動をしているので、これによるところが大きいことを指摘されていました。2)については、必ずしも専門分野への進路を強調するわけでなく、マスコミ、出版業、シンクタンクなど、多岐にわたる分野への人材輩出を想定して、大学院教育をおこなっていることを強調されていました。渡辺先生のご意見は、終始に渡り一貫しており、非常に分かりやすく思いました。
今回の会見では、日本の研究者はwork-life balanceが偏っており全体的に病的な症状にあることも話に上がりました。それを受け、最後の発言者の方は、記者の方々のまとめ方によっては、こんなに苦しい状況でも若手研究者は頑張っていると強調することは、若手研究者のwork-life balanceが偏っていることを強調し、研究者の負のイメージを強調しかねないことを危惧されていました。
私も同感です。今回の科学技術に対する一連の仕分けに対する科学者の反発を報じる報道の中には、博士課程の大学院生やポスドクが経済的にも生活的にも苦しい社会の弱者であることをやたらと強調するかのような報道を見ました。確かに、これを完全に否定することは出来ません。実際に日本のポスドクの状況、将来は決して明るいものであるとは言えません。しかしながら、若手研究者への予算削減傾向への危惧を述べることにより、ポスドクがワーキングプアであると過剰に社会認知されることも同時に危険であると思います。大学等研究機関を中心とした科学の社会だけでなく、一般社会の中で、大学院教育や博士の必要性が広く当たり前のこととして認知される日が来ることを望みます。
雨の中、東大構内の紅葉がきれいでした。