2011年8月アーカイブ

エコロジーの原点

最新のBulletin of the Ecological Society of Americaに、David LindenmayerとGene Likensによるエコロジーの原点回帰に関するコメントが掲載されました。私も非常に同感します。コメントは以下の3点の焦点に要約されています。

1)分類学や自然史に係る分野の衰退と、メタ解析やデータマイニング、モデリングへの偏重がある。後者は短期・廉価に出版へとつなげられる一方で、フィールドをベースにした古典的あるいは経験的な研究は時間も予算もかかる。この状況は、フィールド科学の分野の若手研究者に対して困難な状況を生み出している。

2)フィールドをベースにした定量的な研究は、定性的な意見論文よりも引用されにくい。

3)論文の文字数やページ数の制限が厳しくなっているので、ボリュームのあるフィールド研究を発表する場がなくなってきている。

究極的には野外の事象を解き明かすことを目的にしている生態学においては、メタ解析もレビューも、モデリングもデーマイニングも、実際のフィールドデータなしには成し得ません。非常に納得する内容だと思います。

私自身も、10年以上データを取り続けている調査地があります。同時に、他の方の取得したデータを使ったこともあります。時間も労力もかけてデータを取得するフィールド科学者が損をすることのないような状況が必要だと思います。

英語サイト

英語のウェブサイトを作りました。コンテンツは日本語のものと一緒です。

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ESA 2011

テキサス・オースティンでのアメリカ生態学会の年次大会に参加しました。参加者は約4000人とのことなので、日本の生態学会の2倍強でしょうか?多くの人で賑わっていました。

感想としては、日本の生態学会での発表傾向と結構異なることが印象的でした。日本で発表件数も多く聴衆も多いようなポピュラーな分野が発表数が少なかったり、全く見受けられなかったりしました。あるいは、逆に日本ではあまり見かけないような分野の発表が非常にポピュラーであったりということもあり、生態学における現在のトレンドについて考えさせらました。なお、日本と共通なのは、最近では応用生態学の発表がやはり増えているようです。

もうひとつ印象的だったのは、今回のテーマである「Earth stewardship」のシンポジウムの際に、学会長であるアラスカ大学のDr. Chapin III の発表の前に、アメリカ最大のオーガニックフードのマーケットチェーンであるWholefoodsによる発表があったことでした。企業として最大のウリである「Sustainability」にどのように取り組んでいるのかについての講演がでした。このような発表があることが、学会の内容の多彩さにつながっているとも感じられました。

その他にも、Ecology、Ecological Monograph、Ecosphere、Frontiers in Ecology and the Environment、Bulletin of the Ecological Society of America、American Naturalist、Ecology Letters、Trends in Ecology and Evolutionの編集長が集まって、論文の採択までにおける過程について、学生やポスドクの人たちの疑問に直接に答えるワークショップなどもありました。Bulletinの編集長が、私のカルガリー大学でのホストであるので、様子を見に行きました。キャリアの若い人たちが、これらの雑誌の編集長と直に話せる機会があるのは、とても大きなアドバンテージだとも思います。多くの有力雑誌がアメリカ系であるので、当たり前ですが、日本人にはいろいろと不利があることも同時に考えさせられました。

日本からも精力的に発表に来ている方々を見かけ、いろいろな意味で良い刺激となりました。


オースティン名物である夕方のコウモリも会場近くで見れました。

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国立公園局のアウトリーチ

今年は、International Year of Forestsであることもあり、カナディアンロッキーのバンフ国立公園では「Fire in the forest」というFire scientistとハイキングをしながら、山火事の話を聞くという催しに参加しました。場所は、バンフ国立公園のJohnson Lakeという湖の周辺です。ロッジポールマツ、ポプラ、ダグラスファーなどの森林に囲まれています。



過去の山火事抑制の失敗や、その問題からの生態系復元のための火入れ、樹皮で光合成をするポプラがエルクによって食害されることで林床火事への耐性が高まること、構造的に発達している森林がより健全であることなどについて、ハイキングをしながらのレクチャーでした。


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現在、バンフ国立公園では、ダグラスファーは限られていますが、かつてはもっと優占していたそうです。内陸部のダグラスファーの森林は、林床火事で維持された疎林です。樹皮が厚く燃えにくいダグラスファーは、林床火事により下層植生がコンスタントに燃えることで、維持されてきました。

かつてはダグラスファーの疎林がもっとあったのは、気候条件か先住民(First Nation)の火入れか、どちらの影響が強かったのかを聞いたところ、年輪中に残された火事の痕跡が春に多いことから、先住民の影響が大きいのではないかとのことでした。


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現在、ダラスファーの疎林を維持するために、定期的に火入れを行い、モニタリングを継続しているとのことでした。なお、はじめてバンフ国立公園で火入れを行った際には、6haの火入れに、10台のトラックと30人がかりで3週間要したのが、現在では1台と4人で半日で済むそうです。はじめての時は相当に恐る恐る火入れをしたのでしょうね。

以上のような、国立公園の利用者向けのイベントは、北米では非常に多く行われています。このような活動は、生態学という科学が社会と関わりながら、生態系の管理を行う上で非常に重要だと思います。


ようやく更新

Movable typeのトラブルからようやく復旧し、久々に更新しました。自身の研究トピックの内容を平易化し、新たに総括的な「撹乱生態学」「生態系管理学」の項目を設けました。更新が遅くて、申し訳なく思います。

研究にまつわる写真

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