日本生態学会関東地区会・公開シンポジウム
「群集生態学の現在とこれから」
企画者:森章・藤井佐織(横浜国立大学環境情報研究院)
日時:2014年9月19日(金)15:00-18:00
会場:東京大学弥生講堂アネックス・セイホクギャラリー
〒113-8657 東京都文京区弥生1-1-1 東京大学農学部内
参加費:無料(事前申し込み不要)
詳細:生態学会関東地区会HP http://www.esj-k.jp/
問い合わせ先:森 章(横浜国立大学環境情報研究院/日本生態学会関東地区支部会)
企画者:森 章・藤井佐織(横浜国立大学環境情報研究院)
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●講演者およびタイムスケジュール
15:00-15:10 趣旨説明
藤井 佐織(横浜国立大学環境情報研究院)
15:10-16:25 レクチャー
深見 理(Department of Biology, Stanford University)
「群集の履歴効果」
休憩
16:35-17:50 プレゼンテーション 25分ずつ
土居 秀幸(広島大学サステナブル・ディベロップメント実践研究センター)
「群集生態学の拡張:生態学を超えて」
饗庭 正寛(東北大学生命科学研究科)
「形質データベース以後の群集生態学」
森 章(横浜国立大学環境情報研究院)
「生物群集の均質化:群集集合理論に基づく検証」
17:50-18:00 ディスカッション
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レクチャー:
深見理(スタンフォード大学)
「群集の履歴効果」
どの種がいつ移入するかによって、出来上がる群集の種構成が変わることがある。この「履歴効果」のために、群集間で種構成にばらつきが生じ、複数の群集を含んだ地域全体の種多様性は高まり、生態系機能も変わりうる。今回の講演では、履歴効果が生物多様性と生態系機能に果たす役割について、「ベータ多様性」や「系統的多様性」、「レジームシフト」、「生態と進化のフィードバック」など、近年の群集生態学で主流となっているテーマと関連づけながら考察する。特に、履歴効果の仕組みや条件について、種の適応的背景と群集の過渡期動態に焦点を当てながら議論を進めたい。
プレゼンテーション:
土居秀幸(広島大学)
「群集生態学の拡張:生態学を超えて」
群集生態学は生態学の1分野として確立され,長らく研究が進んできた。その中で,メタ群集理論などが発展してきている。本講演では,メタ群集など,これまで島嶼などで行ってきた群集生態学の基礎的な研究について紹介する。さらに,群集生態学の理論や解析手法は,生物群集を理解するだけでなく,生態学の他の領域や,生物学でもない全く別の学問領域に応用されつつある。そのような,群集生態学の枠組みを超えた部分についても紹介したい。具体的には,人間への文化的生態系サービス(レジャーなど)に生物多様性が及ぼす影響について,日本全国の河川について行った研究と,群集生態学的解析手法(多様性指数など)を用いて,昨今問題になっているエネルギー資源のバランスについて解析し,そのエネルギーバランスの多様性や頑健性について評価する手法について紹介したい。
饗庭正寛(東北大学)
「形質データベース以後の群集生態学」
近年、植物の機能形質データベースが急速に充実している。近い将来、多くの樹木種の主要な機能形質が、自由に利用できるようになるだろう。本講演では、植物の形質データベースを活用した群集生態学の発展と、講演者らによる国内の樹木群集を対象とした研究例を紹介する。ひとつ目の研究例として、形質と樹木種の優占度の関係を検証した例を取り上げる。形質に基づく、優占度のメカニスティックな理解は、群集生態学の大きな目標の一つであるが、研究例は少ない。今回は、形質データベースと林野庁の日本全土を網羅する樹木群集データを用いて、機能形質が樹木種の優占度に大きな影響を与えていることを示す。ふたつ目に、伐採による二次林化が森林の機能的多様性に与える影響について紹介する。二次林化に伴う種数の低下は負の、群集集合過程の改変による形質値の発散は正の影響を機能的多様性に与えていた。全体としては種数の低下の影響が大きく、若い二次林では機能的多様性の低下が見られた。さらに、二次林化や人工林化が生態系機能・サービスに与える影響についても紹介したい。
森 章(横浜国立大学)
「生物群集の均質化:群集集合理論に基づく検証」
生物群集の均質化とは、場所ごとの生物群集の組み合わせの多様さ(ベータ多様性)の消失を指す。土地改変などに伴い生物群集の均質化が生じていることが世界中で報告されている。これまで特に、空間的に大きなスケールで生物群集の均質化傾向が記述されてきたが、局所的なスケールでの群集の均質化については報告例が限られている。しかしながら、近年のいくつかの報告では、群集の均質化は小さな空間スケールでも生じ得ることが示されている。本発表で紹介する研究では、局所群集内の生物間の相互作用として、土地改変傾度に伴う群集の均質化をもたらすプロセスの解明を目指している。この事例を中心に、生物多様性の形成プロセスの変化を推察するにおいて、群集生態学に根付いた解析手法を用いることの有用性について論じたい。