山火事の生態学的機能

 

近年の顕著な環境変動が,高標高域・高緯度域に存在する生物相や生物多様性などに与える影響にさらなる関心が集まっています。例えば,2007年,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は,温暖化に伴い,高標高域の積雪量が激減していることを報告しました。積雪量の減少に伴い融雪時期が早まりつつあり,その結果として,高標高域における大規模な山火事の発生確率が上昇していることが指摘されています。さらに,最近の大規模な山火事は,過去に実施されていた森林火災抑制プログラムによる生態系改変に原因があるとも考えられています。地球温暖化と人間による森林利用といった相互作用を受けて,大規模な山火事が頻発し始めている可能性も考えられます。


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北米大陸においては,北部ロッキー山脈の中高標高地域に位置する森林が,この20年程の間に山火事が最も急増した地域だと言われています。例えば,カナダ・ブリティッシュコロンビア州のクートニー国立公園では,2001年と2003年の山火事で亜高山帯林の大部分が燃えました。同様に,米国・モンタナ州のグレーシャー国立公園でも,2003年と2006年に破壊的な規模の山火事が起こりました。国立公園の山岳森林景観の半分近くを焼き尽くすほどの山火事は,見た目には確かに空前絶後の大規模な自然災害に思えます。しかしながら,このような自然現象を単に災害と認識することは早計かもしれません。もしも,このような大規模なイベントが生態系にとって必要な自然現象,つまり"自然撹乱"ならば,災害と認識し排除することは,生物相や生物多様性に対して取り返しのつかない悪影響を与えてしまうことが懸念されます(森 2007, 2010, 2011)。

 

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米国からカナダにまたがる広大なロッキー山脈には,イエローストーン国立公園やカナディアンロッキー山脈自然公園群などのユネスコ世界自然遺産をはじめとする貴重な生態系が多く存在します。大規模な山火事は徹底的に生態系や景観を破壊するので,そこに内包される生物相は甚大な影響を受けることが知られています。しかし,北米の亜高山帯では,大規模な山火事は本来ある程度は起こり得るものです。今問題なのは,人為影響によって,必要以上の規模や頻度で山火事が引き起こされているかということです。必要な山火事を排除することは生態系サービスや生物多様性に甚大な負の影響を与えますが,自然に起こり得る以上の山火事も生態系を破壊し劣化させてしまう可能性があります。

 

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そこで,近年の頻発する大規模な山火事が,人為活動由来の地球温暖化に起因するのか,過去の火災抑制の反動なのか,あるいは,自然撹乱として本来起こり得るものなのか,この問いに答えることが必要となります(Mori 2011; Mori & Lertzman 2011)。

私の研究では,ロッキー山脈の山岳森林景観で起こる大規模な山火事の要因とその生態学的な意義について考えています(Mori 2011; Mori & Lertzman 2011)。特に,生態系や気候条件の人為改変の影響をどの程度受けているのか,どれくらいの規模や頻度ならば自然現象として山火事を許容できるのかを定量化することに,焦点を置いて研究を行っています。


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研究対象としているのは,上述したカナダ・ブリティッシュコロンビア州のクートニー国立公園と米国・モンタナ州のグレーシャー国立公園です。両国の国立公園管理局のサポートのもとで研究をしています。具体的には,1)地理情報システム(GIS)を用いて過去の山火事の空間的変動を推定し,火災抑制の影響を評価すること,2)自然要因としての大局的な気候パターン(エルニーニョなど)の変動が,地域の気候および山火事体制に与える影響を評価すること,3)湖底堆積物を用いることで,過去1000-2000年間の気候変動と山火事頻度の推定をすること,を試みています。これらにより,自然撹乱としての山火事体制の評価を行っています。 

 

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関連業績

Mori AS (2011) Ecosystem management based on natural disturbances: Hierarchical context and non-equilibrium paradigm. Journal of Applied Ecology 48: 280-292.

Mori AS (2011) Climatic variability regulates the occurrence and extent of large fires in subalpine forests of the Canadian Rockies. Ecosphere 2(1): art7.

Mori AS, Lertzman KP (2011) Historic variability in fire-generated landscape heterogeneity of subalpine forests in the Canadian Rockies. Journal of Vegetation Science 22: 45-58.

森 章 (2010) 撹乱生態学が繙く森林生態系の非平衡性. 日本生態学会誌 60:19-39.

森 章 (2007) 生態系を重視した森林管理-カナダ・ブリティッシュコロンビア州における自然撹乱研究の果たす役割- 保全生態学研究 12: 45-59.


研究にまつわる写真

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