樹木多様性と土砂災害

日本全国の森林データベースと土砂災害データベースを用いて、樹木種数と表層崩壊に伴う土砂災害との関連性を評価した論文が、米国のEnvironmental Managemenrtにおいて掲載されました。筆頭著者は、修士2年の小林勇太です。

Kobayashi Y, Mori AS (2017) The potential role of tree diversity in reducing shallow landslide risk. Environmental Management : in press.
トヨタ財団ウェブページでもご紹介いただきました。
生態系をベースにした災害リスク低減(Eco-DRR)の可能性については、世界中で議論されているところです。この文脈において、とくに生物多様性の効果について着目されつつあります。たとえば、国際自然保護連合(IUCN)のRelief Kitと呼ばれるプロジェクトなどがあります。しかしながら、生物多様性が災害抑制や、あるいは災害からの復興に寄与するのかどうかは、実証に欠けているところが現状です。そこで、Eco-DRRのうち、とくに多様性の役割を評価しようと試みたのが本研究です。
結果としては、生物多様性が災害抑制に直接的に寄与するという実証は得られませんでした。しかしながら、多様性の間接的な関わりは見出されました。端的に述べると、樹種多様性を高く維持するような土地利用が、災害予測に係る不確実性を削減し得ることが分かりました。
樹木種数については、林野庁による「森林生態系多様性基礎調査」のデータを用いました。また土砂災害についても、国土交通省による「土砂災害・雪崩メッシュデータ」を用いました。日本全国をカバーする貴重なデータで、個人レベルではとても取得できません。有意義に活用させて頂きました。ただ残念なことに、両データ共にデータへのアクセスが限られており、土砂災害抑止により貢献するような樹種や森林タイプの特定などについては解析することすら叶いませんでした。ゆえに今回の結果は、あくまで多様性と災害の関連性の一端を示すものに過ぎません。特に個々の樹種の効果や機能的多様性などは興味深いところです。今後、可能であれば、樹木多様性と災害リスクとの関連性をより精査したいと考えています。
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