林業における生物多様性

国連環境計画「生物多様性の日」記念として、保残伐施業のシンポジウムが札幌で開催されました。

朝に音威子府を出て札幌へ移動し、シンポに参加、講演してきました。
北海道で実施されている保残伐施業のプロジェクト、とても興味深く、またようやく日本で始まったことに個人的な感慨を覚えました。
私の講演内容は、この林業地で木を伐りながら生物多様性を保全する(人の経済活動と生き物の住み場所の保全を同所的に成し得る)施業方法の世界的な広がりについてお話しさせていただきました。
上記に関連して、保残木施業と(低インパクトの)択伐施業が生物多様性の保全にいかに有効なのかをまとめたメタ解析論文が数日前に出版されました。
Mori AS, Kitagawa R. (2014) Retention forestry as a major paradigm for safeguarding forest biodiversity in productive landscapes: A global meta-analysis. Biological Conservation 175: 65-73.
上記の論文では、
「保残伐も択伐も天然林に等しい多様性(種数)を保全しうる可能性がある」、
「ただし、保全の可能性は分類群により異なる」、
「ひとのほしい物を伐る択伐よりも、生き物にとっての住み場所を残す保残伐のほうが生物多様性に対する負の影響を軽減できる」、
ということがわかりました。
木材生産のための場所である施業林において、生き物のために樹木を伐採せずにある程度残すという施業方法は、多様性の保全と資源利用の妥協点ではなく、両者の共存可能性を示唆しています。
農業セクターでの多様性保全で議論されがちな、土地の共有(land sharing)と土地の分割(land sparing)に照らし合わせると、前者に相当します。つまりは、人と生き物の間で「場を共有する」ことが出来るかもしれないということです。
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