利用と破壊

カナダの山岳地域では、観光は重要な産業です。以前は鉱山が主要産業でしたが、今では、スキー、氷河ツアー、トレッキングなどが、地域の振興の核となっています。

 

以下の写真は、Purcell(パーセル)山脈に位置し、Jumbo Glacier と呼ばれる氷河地帯です。夏はトレッキング、冬はヘリスキーでポピュラーなところです。

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ジャンボは、BC州の豪雪地帯、パウダートライアングルの真ん中にあり、雪質・量ともに最高な場所であることから、バックカントリースキーをするには、素晴らしい場所です。しかし、氷河を用いた通年型のスノーリゾートを作ろうという計画が持ち上がっています。

Jumbo Glacier Resort」 という名前で計画が進んでいるのですが、ここに、5500部屋のホテル、750部屋のスタッフルームを建設し、冬は3400mまで100%天然雪で、夏は700mまでの氷河を滑る、という通年営業スキー場を建設するとか。計画が実行されれば、ハイシーズンには国内外から多くの客が訪れるし、建設には雇用も生み出せるでしょう。 

一方で、Jumbo エリアは、グリズリーを含む多くの野生動物の重要なコリドーになっていることからWild Jumbo という団体が反対しています。また、スキーヤー、研究者、そして住民の大半が反対しているとか。

ツーリズムやレクレーションの観点からすると、バンフホットスプリングスホテルやシャトーレイクルイーズがそうであったように、最初は強い反対があっても、リゾートとして成功すると、たくさんの雇用が生まれ、外貨が流入し、経済が潤い、住民にとってはなくてはならない観光資源となるかもしれません。しかし、Jumbo の場合、町から遠いことや、すでにパノラマ・リゾートがあることから、さらにリゾートを建設することを住民に説明して納得してもらうのは難しいかと想像します。

 

ちなみに、カナダでは有名な、Kicking Horse Coffee。いろいろ種類があるのですが、その中に「JUMBO WILD」というブレンドがあります。裏にはしっかりと、スキー場建設反対のステッカーが貼ってあります。

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このキッキングホースコーヒーは、フェアトレードやオーガニック認証を取得したコーヒーであり、環境などへの配慮が伺えます。しかし、一方で、キッキングホース自体には、巨大なスキーリゾートがあります。そこで出されているコーヒーはすべて、このブランドのコーヒーです。それを考えると、状況は複雑です。

キッキングホーススキーリゾートは、もともと小さなスキー場だったものを、住民投票の結果94%の賛成を得て、海外資本を導入し大規模に開発されたものです。今となっては、この巨大リゾートは、小さな山間部の町であるゴールデンを支えています。このことからも、開発は地域振興に必要でしょうし、自然環境に対してレクレーションをもとめることも重要だと思います。

一方で、過度な開発は当然ながら避けるべきでしょう。では、開発は、早い者勝ちなのでしょうか?私自身は、スキー場を利用ますが、過度な開発は避けて欲しいです。この点は多くの方がそう考えると思っています。 開発と保護の線引きはどこで決まるのでしょうか?

 

この約150年間、すでに町を作り、線路を通し、道路を作り、BC州のグリズリーのハビタットは、縮小されてきたと思います。そして今、これ以上の自然への干渉を避けようと思うのは必然だと思います。では、どれだけ利用し、自然環境に影響を与えるのが許容され(あるいは、産業としてのツーリズムとして歓迎され)、どこからが破壊として拒絶の対象になるのでしょうか?

 

利用のための開発と破壊と捉えられる開発の境界は、生態系の自然攪乱と社会に対する自然災害の境界と同様に、私自身がより明確な意見・見解を持ちたいと思います。

 

森章 研究室 > 活動報告 > 利用と破壊